印刷を学ぼう─制作編
●色について
色について説明する前に,『光』のことにもすこしだけふれておくことにします。
みなさんは,「可視光線(かしこうせん)」ってご存じですか?可視光線というのは,光が目に入り,「視感覚」を起こす光のこと。「視感覚」とは,見える感覚のことです。この感覚によって,「リンゴの色は赤い」とか「空は青い」と知ることができるのです。さて,みなさんは,プリズムを太陽の光にかざしたら,虹ができるのは知ってますね?「赤・橙・黄・緑・青緑・青・紫」と色分けされた太陽の光を見ることができます。これは目が太陽光を「色」として認識するからなのです。
*光と色* 赤色より上ならば「赤外線」,紫色より下ならば「紫外線」と呼ばれる。
この「可視光線」とは,電気の波,「電磁波(でんじは)」と呼ばれます。FMラジオの電波や,赤外線(せきがいせん)・紫外線(しがいせん)も電磁波です。電波と光が仲間どうしなんで,ちょっとおどろいた人もいるんじゃないかな?でも,もっとおどろくことがたくさんありますよ!
人が見ることが可能な範囲の色の電磁波は下は380nm(ナノメートル)~上は780nmの間で,これは,「虹の色」です。CIE~国際照明委員会(こくさいしょうめいいいんかい)できめられています。虹でいえば,赤色がみえる上限で,紫色が見ることのできる下限なんです。ようするに,光には「全ての色が含まれている」わけです。
さて,本題の『色』のお話。
人が見ることができる波長380~780nmの光を「色」として認識するしくみは,どのようになっているのでしょうか?
人間は,レッド(Red=赤)・グリーン(Green=緑)・ブルー(Blue=青紫)のRGBを『光の3原色』のそれぞれの色の光が目に入る強さの量によってさまざまな『色』として認識するのです。この3色をぜんぶあわせたなら,白色になることから,『加法混色』または『加色混合』と呼ばれます。
これに対して,印刷のインクなどの「物体の色CMY」を『色材の3原色』と呼び,シアン(Cyan=藍)・マゼンタ(Magenta=紅)・イエロー(Yellow=黄)で構成されています。
たとえば,藍色(シアン)でぬってある「紙」をみることにしましょう。なぜ,あなたは「藍色だ」とわかるのでしょうか?これは,紙に光があたり,光の3原色である レッドを「吸収」 し,そのほかの ブルーとグリーンを「反射」 しているからなのです。このように,光の一部が減る割合で色を表現することを 『減法混色』 といいます。つまり,『色材の3原色』を すべてあわせると,光がぜんぶ吸収され,黒く みえます。
印刷では,再現できない黒を再現するためにブラック(Black=黒~kuro)インキを加えて,CMYKがカラー印刷の4原色とされています。印刷で表現できる色は,シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックのそれぞれをうまく掛け合わせることによって,色を表現していきます。
*加法混色(左)と減法混色(右)*
●アミ点について
それでは,どうやって,文字やイラストや写真が印刷されるのでしょうか?想像がつきますか?写真を一枚一枚現像して,貼る?文字はコピーする?いえいえ,そうではないのです。
みなさん,新聞の写真の部分をじ~~~っとみてください。もっと近寄って!なにか,見えてきませんか?そう,その連続した丸い点々があつまったような・・。それでは,その写真でいちばん色の薄い部分の丸い点々の集まりと,いちばん濃い部分のそれを見くらべてみてください。点々の密集度(みっしゅうど)がちがうことを発見できるでしょう。そうです。全ての印刷物は,その点々のこい,うすいで「濃度」が表現されているのです。それを 『アミ点』 といいます。『アミ点』に「CMYK」の色をパーセンテージで指定して,色をつけてゆきます。たとえば,文字を真っ赤にしたい場合,M100%+Y100%というふうに。印刷する全ての文字や写真・イラストは『アミ点』にしなければなりません。
*濃度*
濃いところも薄いところも点の大きさは同じだけど,
点と点の間隔(密集度)がちがうことで濃い,薄いが表現される。
この『アミ点』に「CMYK」の割合を指定することで,色が表現される。
しかし,色が複雑にからみあう写真や絵の場合,いちいちパーセントを指定していては,とても時間がかかりますし,めんどうですよね。それでは,写真はどうしたら印刷できる『アミ点』になるのでしょう?
「この写真を印刷してください」とたのまれたときに,まず,印刷したい写真を『スキャナー』という機械にセットし,小さな光をあてRGBのフィルタを通して光の反射と吸収をおこします。印刷可能な色であるCMYKの「アミ点」にしてしまいます。これを,『色分解』と呼びます。
*色分解のしくみ*
Rのフィルタをかませると,
写真の色で,MとYの成分をもつ部分はRのフィルタには通らない。
したがって,Cの色の部分だけが通り抜ける。
こうしてわけたものを印刷するためにはCMYKそれぞれの版をつくって,4つのそれぞれの版を印刷機にかけてインクをのせてゆくのです。
●印刷方式
印刷機には扱う用紙の違いにより,大きく分けて『輪転方式(りんてんほうしき)』と『枚葉方式(まいようほうしき)』があります。
『輪転方式』の紙は,長い巻物(トイレットペーパー)のような一枚の長い紙で,印刷した後,仕上げの大きさにカットします。『枚葉方式』の紙は,あらかじめカットされている紙に印刷し,さらにその後で仕上げの大きさにカットします。
*「枚葉方式」の紙(左)と「輪転方式」の紙(右)*
印刷の種類は大きく3つに分けることができます。 これは,版の作り方(刷版:さっぱん)の特徴で分けられています。版とは,版画をするのに,板に彫刻刀で色の付かない部分をほっていきますよね?その「ほられた板」と考えてください。
ひとつめは,『平版(オフセット)』。版(版画の板)がアルミニウムでつくられています。これはPS版といわれています。そのPS版に,色をつけたい部分をほんのすこしだけ高くしておいて,その板に直接インクを塗り,紙を押しつける方式です。この印刷方法で,刷られるものとして,新聞広告のチラシがあります。チラシの色の付いている部分をなでてみてください。インクのついているところと,白い部分では,「ぼこぼことした感覚」はないでしょう?
ふたつめは,『グラビア(凹版)』。平版とは反対で,色を付けたいところをほって,ほってできた「くぼみ」に色を入れて押しつけて行く方式です。この版は,他の2つの方式の版にくらべて,とても耐久性が高いので,一度に大量の同じものをつくるのに向いています。この方式で刷られるものは,通信販売のカタログなどが代表されます。
みっつめは,『オンデマンド印刷』。版をつくる方式ではありません。ここがほかの2つと大きく違うところで,「カラープリンタ」のようなかんじと考えて下さい。
コンピュータからプリンタにデータを直接おくり,必要なときに,必要な枚数だけ印刷ができるのが最大の特徴です。これは少ない量の印刷物を刷るのに向いています。
●紙と文字について
○紙について
「印刷方式」の章で「枚葉方式」と「輪転方式」と分けられるというお話はしましたが,その大きな違いは『紙』にあったことを思い出して下さい。
印刷の紙のサイズには,コピー用紙などでおなじみの 『A判』・『B判』 があります。印刷方式が違う2つにもそれぞれに『A判』・『B判』がありますが,実は,同じ『B3』サイズの仕上がりでも, 微妙に大きさが違う のです! 「枚葉方式」の「B3」は,365×515ミリで,「輪転方式」は,380×535ミリというように。
*おなじB3でもサイズがちがう*
なぜそのようなちがいがあるのでしょうか?
それは, 印刷方式の『紙』に違いがある からなのです。
「枚葉方式」の紙は,あらかじめ決まった大きさにカットしてある紙に印刷してゆきます。一方,「輪転方式」の紙は,トイレットペーパーのようなロール紙に印刷し,印刷後で紙を仕上がりのサイズにカットします。そういった方式の違いにより,『B3』でも,サイズに違いがでてくるわけです。
また,みなさんがチラシを見たときに,印刷された周りに5ミリくらいの余白が四方にあるものと,紙の大きさぎりぎりに印刷されているものがあるとおもいます。あれはデザイン?もちろん,そういうものもありますけれど,四方に余白があるものは「輪転方式」で刷られたもの,ないものは「枚葉方式」で刷られたもの というふうに考えてもいいでしょう。これも,印刷の仕方による『紙』の違いがあるからなのですよ。
*「輪転方式」での紙(左)と「枚葉方式」の紙(右)でのちがい*
輪転方式」では,印刷上,四方に「余白」をつけなければならない。
一方,「枚葉方式」では,紙いっぱいに色をつけたり,写真をレイアウトすることが可能。
ですから,「輪転方式」の印刷機で刷る場合と,「枚葉方式」で刷る場合の,デザインやレイアウトの仕方にも注意が必要なのです。
デザインやレイアウトをする台紙を 『版下台紙』 とよびます。 下のイラストは版下台紙の名称です。
*版下台紙の名称*
印刷には『トンボ』とよばれるものが大変重要な目印とされています。というのも,『角トンボ』をみてください。2重の線になってますよね。その内側の線が,仕上がりの紙の大きさに切るときの目安になるからです。もしも,「角トンボ」がなければ,どこを切っていいのか,仕上がりの大きさは何サイズなのかがわからないのです。
今度は『裁ち落し分(たちおとし)』を見て下さい。これは,「角トンボ」の内側の線と外側の線の「間」のことで,「ドブ」ともいわれます。『裁ち落とし』という言葉からわかるように,「切って落としてしまうところ」です。これはおもに「枚葉方式」で印刷するものをデザイン・レイアウトするときに,重要な役割を果たします。
前に書きましたが,「枚葉方式」は,紙のぎりぎりまで写真や文字がレイアウトできます。紙のぎりぎりに写真をレイアウトしたい場合,「角トンボ」の内側の線(つまり紙の仕上がり部分)ぎりぎりに写真の角の部分をもってきてしまったら,紙を仕上げる際にずれてしまったときに,へんな「余白」が残る場合があるのです。しかし,角トンボの外側の線までしっかり写真をレイアウトしていたら,仕上がりで紙を切るときに,「裁ち落し分の余裕」ができますのでへんな余白ができずにすむのです。
明日の朝,チラシを見るときは,ちょっと気をつけてみて下さい。意外な発見がありますよ!
○文字について
みなさんは,『明朝体(みんちょうたい)』『ゴシック体』という言葉を聞いたことがあると思います。いろんな種類の文字がありますが,大きく分けるとこの2種類に分類されます。
下のイラストを見て下さい。
これからわかるように,『明朝体』は,「たてとよこの線の大きさが違うデザイン」のものをさします。『ゴシック体』は「たてとよこの線の幅が同じデザイン」です。これは見分けるにはそんなにむずかしくないですよね?
みなさんは,この2つにどんな印象をうけるでしょうか?『明朝体』は上品な印象を受けるし,『ゴシック体』は元気で力強い印象を受けます。そういった文字のデザインの特徴を生かしながら,デザイナーは,書体の指定をしてゆきます。文字の指定ひとつで,できあがりの印象がかわってきくるので慎重に選ぶ必要があります。
●製本方法
今度はうすいぺらぺらの本と,表紙がじょうぶな本を用意して下さい。そうですね,雑誌と百科事典がいいかな?準備できましたか?
それでは表紙を比べてみましょう。雑誌は表紙がぺらぺらの紙です。百科事典は表紙ががんじょうな厚い紙でできています。また,雑誌は,表紙と中身の紙の大きさがおなじで,百科事典は表紙が一回り大きくなっているのに気づくでしょう。
次は表紙を回して「背」の部分を見て下さい。雑誌はとんがっていて,文字がかけません。ところが百科事典はそこに本のタイトルが書いてあったりするでしょう?
こんどは本を開いてみて下さい。雑誌はしっかりと開くことができるのに対し,百科事典のようなものはなんだか開きにくいです。
このように本の作り方にはいろいろ違いがあることを発見できると思います。
ここでは本の作り方『製本方法』をご紹介します。
本の表紙のちがいによって, 『上製本』と『並製本』 と呼ばれるものに分類されます。『上製本』は百科事典のように,表紙ががんじょうにできており,厚く,本文の紙の大きさより,表紙が大きく作られているものをさします。それ以外はすべて『並製本』と思ってもらってもよいでしょう。
*「上製本」と「並製本」のちがい *
分け方 | 上製本 | 並製本 |
とじかた | 糸とじ・あじろとじ | あじろとじ・無線とじ・糸とじ・平とじ・針金とじ |
表紙の大きさ | 中身より大きい | 中身と同じ |
見返し | 必ずある | あるものと,ないものがある |
製品 | 百科事典・アルバム・図録 | 雑誌・カタログ・パンフレット |
*「とじ方」とは,「表紙と中身のくっつけ方」のことです。*
名前 | みため | とじる場所 | 特徴 |
中とじ | ![]() | ![]() | ●本の折り目の部分を「糸」または「針金」でとじる。 ●「並製本」でつかわれる。 ●背表紙がなく,開きやすい。 ![]() |
平とじ | ![]() | ![]() | ●本の折り目の部分を「糸」または「針金」でとじる。 ●「並製本」でつかわれる。 ●背表紙があり,開けづらい。 ![]() |
無線とじ (あじろとじ) | ![]() | ![]() | ●本の折り目の部分をのり(ボンド)で背をかためる。 ●「上製本」でつかわれる。 ●背表紙があるが,あけやすい。 (アジロの方が無線よりあけにくい) ![]() |
こんどは,百科事典をじっくりみてください。表紙がおりやすいように「みぞ」のような折り目がついていたり,読みかけのページがわかるように「しおり」がついていたり,表紙をあけると色紙や,薄い紙があったりしますよね。みなさんはそれらの名前をご存じですか?
実はそういった本の部品の部分にも,それぞれ名前がつけられていますので紹介しましょう。おぼえておくと得した気分になれるかも・・??
*本の部分名称*
●製品ができるまでの工程
印刷会社で刷られた製品になるまでを紹介しましょう。
いろんな工程や厳しい検査があったりして,意外にたいへんなんですよ。
原稿入稿 | お客さまから仕事が発生 内容を決めてもらってデザイナーにわたす | |
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デザイン レイアウト 写真分解 | 写真をスキャナで色分解をする | |
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内部校正 | お客さまに見せる前に文字のうちまちがいがないか見る | |
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校正 | お客さまに色やデザインを中心にみてもらう | |
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訂正・修正 | ||
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校正・校了 | 修正分と内容の確認をとって,お客さまに印刷する前の最終確認をしてもらう | |
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出力 | アミ点をつくる作業 | |
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刷版 | 印刷用の版を焼き付ける | |
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印刷 | ||
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仕上げ | 製本作業など |